私と蝶

不求甚解

放送禁止CM、マジカル・パワー・マコ、平沢進

youtubeの放送禁止CM集。

ゲテモノネタ、不謹慎ネタを期待して見始めたが、思ったより「なぜこれが放送禁止に?」と思うような、いたって普通のCMが多く、それぞれに字幕で「なぜ放送禁止になったのか」の解説がついている。この解説がおもしろい。

例えば、ログハウスが出てくるCMは、『「木に釘を打ちこむのは不謹慎」というクレームが入り、』という大喜利「ログハウスをけなしてください」でもやってんのかという理由で放送禁止になっていたり、焼き肉のたれのシリーズもののCMは「女優がベジタリアンであることが発覚し途中で役者差し替えに」というコントみたいな展開で放送禁止になっていたりする。そうした理由が淡々と語られるので、どうしても笑ってしまう。

また、車に乗った井上陽水が「皆さんお元気ですか?失礼します」と言って通り過ぎるだけ、という放送禁止とかそういう以前にCMとしてどうなんだ、みたいな代物もあるので、飽きずに見ることができる。

 

これは導入で、関係ない話をします。

 

平沢進、ここ数年かなり流行ってるみたいですね。

 僕もファンクラブに入るほどには好きなので、人気のおかげでライブ会場がどんどんでかくなり、ライブ自体のクオリティも上がっているのはとてもうれしいんだが、本来平沢進って東京ドームシティホールでライブやるような人ではなかった、つまりは本人も自称するように、『「な~に~?この音楽、きもちわるい」とか、そういう類』の音楽を扱う、「マイナー」ミュージシャンだったはず。この↑曲だって、そんなに一般受けするような曲調ではないし、僕も学校でサッカー部の男子に彼の音楽を聞かせたら、「お前、宇宙とかに興味あるの?」と半笑いで言われたことがある。

名前から分かるように、平沢進は「けいおん!」の主人公、平沢唯の元ネタとなった人物である。平沢進は自身のミュージシャンデビュー30周年を記念したセルフカバーイベント「還弦主義8760時間」の一環として始めたtwitterで、急にフォロワーが増えたことに動揺し、「私は平沢進だぞ。平沢唯じゃない。」というツイートを投稿する。するとそのツイートが非常な反響を呼び、「マイナー」を自称するはずの平沢のフォロワーはさらに増えていく。これをきっかけとして、「平沢進」という名前はアニオタを中心としたtwitterユーザーの間でかなりのポピュラリティを獲得することとなる。

この事件が、彼の今に至る人気の発端であったように思える。いや当然、80年代初頭にP-MODELにおいて発揮される平沢のカリスマ性は、その後30年間の間数多くの人々の尊敬と感嘆のまなざしを集めてきており、その点においては彼はマイナーというほどマイナーでもないのだが、こうした事件がない限りは、現時点でのような人気を得ることはなかっただろう。ちなみに2016年4月3日現在、彼のフォロワーは83,000人を突破している。どのレーベル、プロダクションにも所属していないミュージシャンとしてはけっこうな数ではないでしょうか(彼のCDは現在、自身の設立した会社ケイオスユニオンから配給されている)。知らんけど。

ここで「昔好きだったインディーズミュージシャン、人気出たとたんになんか悔しくなる説」を検証する訳ではないですよ。平沢の独自の音楽性、電波的・中二的世界観、ツンデレ的キャラ、ビジュアル(女子高におけるおじいさん教師モテ現象に似たところがある)、どれもアニオタに受けそうな印象があるので、人気については納得できるのだが、僕が気になっているのは彼の別の側面、つまり思想である。

例えば、以下のまとめ。

こういったいかにもな思想は、通常、人を遠ざける。具体的には、本人も言うように、フォロワー数の減少として現れる。アジアン・カンフー・ジェネレーションのボーカルが、twitterで政治的な主張を行い、ファンをはじめとするフォロワーの間で議論が起こったことがあったけれど、普通ミュージシャンが特定の思想・信条を主張すると、インターネットでは否定的なリアクションが多数を占める。インターネットは、文化が政治性を持つことを、異常に否定したがる。しかし平沢の場合は、あんまりそれがない。おそらく内容が「大手メディア批判」という、インターネットのマジョリティが支持するタイプの言説である、というのがこれを批判する人の少ない第一の理由でしょうが(彼には「崇めよ我はTVなり」という名曲がある)、平沢進はこれ以外にも、かなり過激な主張を行うことがある。

以上のリンクでは、平沢進のブログphantom notesにおける、物質Xと呼ばれる健康薬品を巡る記述について、否定的な考察がなされている。筆者曰く、平沢が服用する物質Xで病気が治るといった主張は、ホメオパシーのような疑似科学、スピリチュアルの類に過ぎない、と言う。実際そうなんだろう。(また、彼はヴィーガン(菜食主義者)であり、これ以外にも様々な独自の健康法を実践している。二酸化炭素吸引、とかやってなかったっけ?)さらに彼は、大手製薬企業による既得権益の保持、市場の寡占が、難病治療に本当に有効な薬品の流通を疎外しているという、典型的な陰謀論を展開しているわけだが、これも疑わしい話というか、東日本大震災はアメリカの地震兵器HAARPによる攻撃である、という主張にも感じ取れる、「圧倒的な力を持つ悪者、それに立ち向かうワタシ」という構図を見て取ることができる。実際平沢なら、こんなこと言ってそうだ。反米だし。そもそも「既存の権力・権威・構造に立ち向かう」というのは、彼のソロ・プロジェクト、核P-MODELのコンセプトでもある。

他にも、彼のファンクラブ会報green nerveでは、自律訓練法という一種の自己催眠の紹介が、彼自身の成功体験を交えて書いてある。昨日は、自身の誕生日を記念して、平沢が「スワイショウ」と呼ばれる気功を実践するときに流す自作のBGMを配信していたが、どうやらその「スワイショウ」も、一種の自己催眠と関係しているようだ。普通の人は寄り付かないようなオカルト・スピリチュアルな要素は、平沢進というアーティストと密接不可分なのである。

こうした平沢の、疑似科学やスピリチュアルに傾倒し、そうした姿勢を反権力の文脈で語る、という「痛い」態度は、上のはてなのリンクのコメントにもあるように、ファンから冷たい目で見られることもあるようだが、基本的にそれが原因でファンをやめるだとか、炎上するだとか、そういったことが起きることはなさそうである。それはひとえに音楽の良さのおかげである、よかったね、で終わらせることもできるけれど、むしろ僕はこの彼の、リアルへの志向、つまり「騙されていることに気付く(灰野敬二)」ことにすべての神経を使う生き方に、平沢の「マイナー」を読み取りたい。それが彼の一番の魅力だと思うんすけど…。バーチャルな生に抗おうとする一方で、いや抗うからこそ、バーチャルなものへの好奇心を失わない、という皮肉も、彼のそうした側面を強調している。いやもっと言うなら、「新興宗教」と形容されることもある彼のライブ、ただその一体感に陶酔するだけなら誰でもできるわけで、きっと平沢がオーディエンスに求めているのはそれではない。騙されてはいけない。

で、本当に書きたいのは平沢についてじゃなくて、最近改めて聞き直してるマジカル・パワー・マコについてで、彼も平沢に通じるものがあるんです。

マジカル・パワー・マコについては、まあ調べてほしいんだけど、はじめは平沢とは全く違う音楽性、かなりアヴァンギャルドでエクスペリメンタル。灰野敬二とか、武満徹とかともかかわりがあったようです。

 で、しばらくするとテクノポップに入り始めて、MSXという、ファミコンみたいな8bitパソコン一台で音楽を作ったりする。新しい物好きで、ストイックという意味では、ミュージシャンとしてのスタンスは平沢に似ていなくもない。マコも平沢と同じで、コモドール社のパソコンを使っていたらしいですね。

で、最近は、なんと反原発SNS「アンドロメダ」を立ち上げ、放射能から逃れる移住コンサルタントをやりながら、人ひとりが一生暮らすことのできる分のエネルギーや食糧を生産できるバイオハウスの研究などに関わっているらしい。どこまでほんとか知らないが、以下のリンク参照。

マジカルパワーマコ × 音楽とオルガスムス

いやーたまりませんな、このトンデモな感じが。地震兵器ガチで信じてるし。彼の信じることが真実か虚偽かは全くどうでもよくて、こう自分の生をしっかりと生きられてしまったら、僕らからは何も言えないでしょう。完敗です。こうなると、なんとなく、平沢の「負」の部分、つまり社会から受け入れられにくい部分を肥大化させたミュージシャンがマコであって、二人は表裏一体な気がしてくるわけですよね。実際マコのアルバム「welcome to the earth」の帯には、平沢の名前が出てきます。

 

ちなみに灰野敬二はヴィ―ガンです。おわり。